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その日の夜、オレはアキの実家を訪ねていた。
「すみません、おばさん」
オレを快く出迎えてくれたアキの母に向かってオレはそう頭を下げた。
「いいのよ、あなたは家族みたいなものだし」
言いながらおばさんは笑い、オレを彼女のいる部屋へと案内して行く。
行き慣れた家。
案内されなくてもどこへいけばいいのか分かっている。
彼女の家の匂い。
どこを歩いても
どこを見ても
彼女で溢れた家。
ここには過去が色濃く残り
彼女のホロスコープがそこここに存在する。
家に上がれば聞こえてくるのは遠い過去の笑い声と呼び声。
『ゼン、待ってたのよ』
『もう、ゼンったら!!』
『ね、美味しいでしょ?』
彼女と過ごした時間がここに凝縮しオレの服の袖を掴む。
切なさと
辛さとが胸に迫り
息苦しさが襲う。



