「杉谷樹里(すぎたに じゅり)」
先生がまた零すように名前を口にした。
「誰ですか?」
「2―Cの杉谷樹里なんだ。
この絵をくれと言ったのは」
オレはもう一度首を捻る。
「美術部の子ですか?」
先生は首を振る。
「絵はさっぱりだな。
でも、あの子の感性は魅力的だよ」
そう言うと先生は立ち上がり、一枚の画用紙をオレに見せた。
「これ……」
描かれた空。
描かれた海。
そこに彼女はいない。
けれど、たぶん一緒の風景を描いたのだと思った。
「おまえほど上手くもなんともない。
でも、溢れていると思わないか?」
オレは市川先生を見た。
「光が……見えるだろう?」



