「なぜですか?」
「いや……返して欲しくなった時がくるかもしれないだろう?」
市川先生の目はオレの心の何を見ているのだろう?
深くて
悲しくて
やりきれなくて
悔しさと
切なさと
もどかしさとが
全部詰まっているような目でオレを見つめる。
「きっとそんなことは一生ないですよ」
一生ない。
あの絵を取り戻したくなるほど、心が晴れ渡るような日々などこの先の未来にあるわけがない。
「……そうだろうか?」
先生がぽつりと零す。
「オレは……きっと前を向ける日が来ると信じてる」
「前はみてますよ」
前しかみていない。
振り返ってみたものは悲しみと辛い記憶だけだから。
「前っていう意味が違うよ」
分かってる。
気持ちの問題だと……先生の言いたいことはよく分かる。



