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冷たい風が吹きすさぶ。
真夏の空の下。
真夏の太陽の下。
真夏の暑い教室に佇むオレの心の中に吹く風はあまりにも冷たすぎて……
「こんなところにいたか、瀬戸」
声を掛けてきた相手をちょっとだけ見、オレはまた前を向いた。
「また、この絵出したんですか?」
オレの質問にやってきた市川先生は困ったように眉尻を下げ「どうしてもって頼まれた」と言った。
「なにがです?」
そう聞くオレに市川先生は椅子を引き、そこに腰かける。
「その絵を譲ってほしいって頼まれた」
「え?」
市川先生はそう言うと「埃をかぶるくらいなら」と続けた。
「ここで埃をかぶりつづけるなら自分が欲しいって。
そう言った子がいたんだよ」
オレが昔描いた絵。
青い空と青い海。
その中で生きた彼女が躍っている。
煌めいていたあの頃の思い出。



