静かに扉を閉め
長い廊下をゆっくりと歩く。
懐かしい臭いがした。
学生の時にはそれが当たり前で
学校独特の匂いなんて気にもしなかった。
当たり前にあったもの。
当たり前に感じていたもの。
何一つ変わらず
再びオレの前にあるものたち。
知っている廊下。
知っている教室。
知っているグラウンド。
知っている体育館。
どこをどう行けばどの場所に出られるのか。
聞かなくても分かる。
ため息が出る。
吐きたくて吐いているわけじゃないのに
自然にこぼれ出てしまうため息にオレはキュッと唇を固く閉じた。
考えてはダメだ。
これからしばらくはここで教師として
若い後輩たちを教えていくことになるのだから。
そう思って腕の中でずっしりと重みを伝える白紙に目を落とす。
真っ白な紙のように
オレの中の過去たちも真っ白に塗りなおされてしまえばいいのに――
そうすればこんなにも苦しまず
こんなにも悩まず
こんなにも悶えず
生きていくことが出来るはずなのに……



