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「じゃ、このプリント悪いが準備室に置いといてくれ」
そう言って恩師である市川啓一(いちかわけいいち)は
オレに分厚いプリントを手渡した。
「これ、なんです?」
そう問うオレに市川先生は「見て分からないのか?」と言った。
「プリントってただのコピー用紙じゃないですか?」
だが市川先生はよく見ろというように
その紙の上部を指差した。
「ここ、名前書く欄ちゃんとあるだろうが」
真っ白いプリント。
もといコピー用紙には確かに名前の記入欄はある。
けれど、他にはなにも印刷されていない。
「なにに使うんですか?」
「なにって、そこにオレへの激励の絵をだな……」
そう言って白髪交じりになった頭をコリコリと掻いて見せる。
「ずいぶん白髪が増えましたね、先生」
昔と変わらない風貌。
肩までの髪を後ろで一つにくくり
無精ひげを生やした顎に手を当てた先生は
「おまえには言われたくないよ」
と豪快に笑って見せた。



