「ごめん」
「愛美のせいじゃない。
オレの問題なんだ、ごめん」
こんな言葉しか愛美に返せなかった。
愛美は小さく首を振り
黙ってオレの横を歩いた。
明日からオレは彼女、アキとの思い出が詰まった
詰まりすぎた母校で美術を教えることになる。
高校時代の恩師であり
前任の美術教師である市川啓一が
海外に武者修行しに行きたいということで
オレにその代役が回ってきた。
抵抗がなかったわけじゃない。
でも、高校時代からずっと可愛がってもらってもいたし
大学に通ってからもずっと交流があった恩師の頼みを
むげに断ることもできなかった。
やっていけるかどうか。
不安は募る。
けれど決めたのは自分なのだからと
もう考えるのもやめた。
とりあえず働き口があるのは助かる。
お金がなければ生活できないし
そのせいで彼女の遺言を守れなくなるのは困るからだ。
3年経ってもオレはアキに囚われている。
いや、きっと何年経とうと
オレからアキの存在は消えることはない。



