「ねぇ、禅。
ほんとに大丈夫なの?」
愛美は伏し目がちにそう尋ねた。
「そう仕向けたのは愛美だろ?」
そう言うオレに愛美は小さく笑って見せた。
「市川先生の頼みごとは断れないじゃない?
それに……禅には昔みたいに絵を描いていてほしいって。
私もそう思ったから」
その言葉にオレは苦い笑みしか返せなかった。
「オレには描けないよ」
オレにはもう描けない。
あの頃のようにはもう描けない。
描きたくても
オレの目は色を映してくれない。
描いても描いても
オレの絵は黒と白。
それが混ざった色である灰色でしか描くことが出来ない。
何もかもが虚ろな灰色の世界。
それがオレの世界――全てだった。
だから……そんな世界しか
今のオレには描くことができなかった。



