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懐かしい街並み。
何一つ変わらない風景。
それなのに……彼女がいないだけで
こんなにも変わってしまう。
たった数年。
この風景から離れただけ。
駅前の小さな古ぼけた喫茶店。
それから少し行ったところの角目の果物屋。
その向かいの古本屋に
こじんまりした映画館。
本当に小さな街なのに
そのどこにも彼女の面影が残る。
駅前の喫茶店はデートの待ち合わせによく使った。
果物屋の主人から
彼女はいつもなにか貰っては
オレに自慢げに見せていた。
古本屋は学校の帰りによく寄った。
本が好きな彼女を待って
オレはよく漫画を立ち読みしていた。
映画館はお決まりのデートコースだった。
彼女の笑顔とその陽炎が
そこここにいて
オレに手を振っていた。



