不器用に、キミと。



さっきファーストキスを奪われたという出来事のせいで怒りが収まらないものだから、私はその店員をものすごい形相で睨んでしまったみたいだ。


店員は、目をまん丸としている。



「えとー…大丈夫?」



私の目つきの悪さ。

ひそめた眉。

曲がった口。



どれに対して言ったか知らないけど、男と会話するなんてはっきり言って悪寒がする。


今は男という生物とは話したくない。



だから、私はもう一度店員を睨むと、黙って外へと足を進める。



「ちょっ!おま…っ」


「会計は、他の誰かがしてくれると思うんで。」


ちらりとも見ずにそれだけ言うと、私はカラオケを出た。



チカチカと光る携帯のディスプレイに、携帯を開いてみると、千春からメールが一件入っていた。


きっと心配してのメールだと思うけれど、今はとりあえず一人になりたかった。



16年間大切にとっておいた最高の瞬間を、一瞬にして奪われてしまったんだから。


私だって、ずっと描いていた。


いつか、大好きな人と素敵なキスをするんだって。


キョウジと…



「はぁ…最悪。」



近くの公園のベンチに座ると、深くため息が出た。


それと同時に、私の頬も涙で濡れた。




「もう泣かないって決めたのに…」


「お前…っ!!」



深く下を向いていると、後ろから肩をたたかれた。



びっくりして振り向いてみると、そこにはあの合コン男。


私のファーストキスを奪ったさっきのアイツ。




_