「ええ、とても。でも用済みになったんだと思う。

元々不穏分子だったから、組織は時田博士を消すことを、待ちかねていたみたいだったわ」

「不穏分子?」

「組織の事を、乗っ取ろうとしていたふしが」

エイジュは小さく悲鳴を上げた。

土に足を取られて、バランスを失ったのだ。
 
浩之は反射的にエイジュの腕をつかんで、転びそうなエイジュを支えた。

「あんまり、逃走向きの靴じゃないね、それ」

エイジュは、しっかりと地面を踏みしめて振り返った。

エイジュの顔が、すぐ近くにあった。

彼女の身体を支えるために、自分の方に引き寄せたんだから、当り前だ。

それなのに、ちょっと戸惑ってしまった。

それがあまりに、らしくない反応だったので、我ながら可笑しくなった。

「あり、がとう」
 
エイジュの方も、戸惑っているような反応をした。