彼女から確かに緊張感は感じられるのに、この状況を怖がっている感じは全くしなかった。

ただ、けっこう高いヒールの靴で、黙々と前を、オレを守るように歩いている。

浩之は目線の少し下の、赤褐色の髪を見つめながら、

「ねえ、なんでオレが英樹じゃないって気付いた瞬間に、オレのこと撃たなかったの?」

疑問に思っていたことを、不意に訊きたくなって訊いてみた。
 
緊張感に、耐えられなくなったのかも知れない。
 
エイジュは、答えに困ったのか聞こえなかったのか、反応をしなかったけど。
 
浩之は、エイジュの姿から少し目を逸らせた。
 
向かいの山の木が、微かに紅葉をはじめているのが見える。
 
山の上は、街より気温が低いから。
 
中には、綺麗な赤を既に彩っているものもある。
 
浩之の意識に深く入り込んで来るその色に、気持ちを奪われそうになるのを、エイジュの声が引き止めた。