山の中って言うのは、けっこう嫌なもんだと、浩之は思った。
 
何者かから逃れたければ、一番に逃げ込みたい場所のように思っていた。

でも、いざそういう立場になって、草と木に覆われた、視界の悪いところを歩いてみると、どの陰にも敵が潜んでいるように思えてくる。

次の一歩を踏み出した途端に、誰かが飛び出して来て、襲い掛かってきそうに思えるのだ。

その恐怖心に耐えていると、自分とエイジュの足音に混じって、第三、第四の足音が聞こえてくる気までしてくる。

「オレ達は、どこに逃げたらいいんだ?」

「分からない。とにかく先ず行きたいところがあるの」

彼女にすら、先は分からないらしい。
 
浩之は苦笑した。
 
エイジュは何を考えながら、歩いているんだろう?