「扉を破って派手に脱走したんだから、バレて当り前だけど」

木々が差し伸べる枝で作られた、薄暗い空間に、浩之も入って行った。

「もっと穏便に脱出する方法は無かったの?」

「無かったと思うわ。

あたしもあなたも、あそこからは勝手に出られなかったから。」
 
自由に出入りするためには、IDカードでも必要だってことだろうか。

サイレンの反応の遅さからして、直接、出入りする者をチェックする訳では無さそうだ。
 
浩之は、エイジュをチラッと見た。

「もしかして、あんたが外に出られるときって、誰かを殺しに行くときだけなの?」
 
エイジュの、気に触ると思った。
 
でも、エイジュは背丈ほどに茂った草の中へ分け入って行きながら、

「そうよ」

何の感情も込もっていない声で言って、振り返った。
 
一瞬の身のこなしだった。