不可抗力なのか故意なのか、オヤジの、スーツの中に無理矢理押し込めた腹が、浩之の腰に触れてくる。
 
逃げなければどうなるのかを想像しなくても、充分にゾワゾワと悪寒が走る。

ちくしょう。

逃げるチャンスを逃して、もっと気持ち悪い思いをするハメになったら、そのウラミは英樹へのウラミにツケといてやる。

ふっと、両手が自由になる。

「来い」

「おい相棒、どこへ行く気だ?」

「住居区へ連れて行く。あそこには、オレの部屋がある」
 
勝手にしろと、長髪が両手を挙げた。
 
浩之は歩き出しながら、長髪がそのままのポーズで倒れかかってくるのを、無意識に避けた。
 
長髪は鈍い音を立てて後ろ向きに転がった。