ドアをカードでロックし、二人に気付いて動きを止めた。

「山岸博士」

エイジュが呟くように言うと、彼はハッとしたようにエイジュを見た。

「おお。エイジュさんか」

「エイジュさんか、じゃないですよ博士。今、非常ベルが鳴って、速やかに建物から出る
ように放送があったはずですよ」

彼は、驚いた表情をした。

それから考えるように

「おおそうか。そういえば何だか騒がしかった気がするな」

「すぐ、帰宅されてください。私は、他の博士が残っていないか調べます」

「そうか。ごくろうさま」
 
彼は、向きを変え、やっと少し慌てたように歩き去った。
 
浩之は、彼の後姿を見送りながら、エイジュを見た。

「あの博士は、普通の有用な研究をしている方の人間よ。そういう人達を逃すつもりで、非常ベルも鳴らせて、放送まで流したのに」