あれから一ヶ月が過ぎた。

まだ三月だというのにのぞみはいつも、木をみては言う。

「桜、さいてないね」とても残念そうに。

「まだ、三月だからね」とぼくは言う。

「何いってるの、桜は三月の象徴よ」のぞみはものしり顔で言う。

桜が三月の象徴だなんて、初めて聞いた。

ぼくは疑わしげにのぞみを見た。

「…花札では、三月の札なんだから」と言った。

河内百合が去って一ヶ月、はじめは、寂しいという思いもあったが、その寂しさも薄れていった。

「べつに今生の別れじゃないんだから」

のぞみに寂しいかきいたときにかえってきた言葉だ。

実際は、のぞみが1番、寂しそうにしていたのだけど。