SleepingBeauti

彼女が何にたいして微笑んでいたのかはわからなかったが、ぼくの胸をざわつかしたのだけは確かだった。

次に会ったのも、やはり廊下だった。

この時、初めて彼女の声を聞くことになった。

高くもなく、低くもないが少しハスキーな感じのする声だった。

ぼくは廊下で彼女を見つけると、俯き、視線を避けるように通り過ぎようとしていた。

彼女はぼくの前まで来ると、歩くペースを少し落とし、「こんばんは」と、言った。

何年も人を遠ざけてきたぼくは、他愛もない挨拶すら返すことができずに、ただ頭を少し下げる低度の会釈を返すのが精一杯だった。