当時のあたしは、束縛の激しい彼氏と別れた直後だった。


そして水を得た魚の様に、自由を満喫していた。


もぉ二度と、束縛するような男とは付き合わないと心に誓った矢先。



場所は、保健室。


そこにあたしが居たのは単に、サボりたかったから。


そして同じ理由を持って同じ場所にいたのが、学校で一番モテるとかって先輩、エイジ。


そして何故か、居るはずの保健室の先生が不在。


状況は、最悪だった。


そして逃げる前に捕まってしまったあたしは、本当にマヌケそのものだ。




『…なぁ、名前は?』


気付いたら、男があたしに近づいてくる。


無意識に後ずさるあたしの足と同じ歩幅で、男は足を進めた。


やがて壁際に追い詰められたあたしに、男の腕が左右の逃げ場所さえ奪うように伸びてきた。



「…あのぉ。
何をやっているんでしょうか…?」


戸惑い見上げた顔は、不思議そうに傾けられていた。



『…二年だよね?』


「…いや、だからさぁ…。」



あたしの質問は、無視ですか?



『…あぁ、俺はエイジ。』



うん、知ってる。



「…じゃなくて!
何やってんですか?」


今度は流されてしまわないように、強く聞いた。


だけど、相変わらず飄々としている態度に、何の変化も見られなかった。



『…オトモダチにならない?』


不敵に笑った顔に、ポカンと口を開くあたしの顔は、酷く滑稽に見えたに違いない。


だけどあたしは、こんな男と“オトモダチ”になりたいなんて思わない。