異常人 T橋和則物語

 しかし、事態は一変する。収録中、魚田みすずの顔が急にひきつりだし、そして顔や体が膨らんだり萎んだりして、そして……なんとT橋和則の外見にもどってしまったのだ。あの”知恵遅れつるっ禿げじじい”T橋和則に。スタジオ内は騒然となった。いや、パニックだ。美少女と思ってみていた少女が、急に”知恵遅れつるっ禿げじじい”T橋和則にかわったのだ。驚くな、というほうがどうかしている。もうそこにはスカート姿の中年禿げ男がいるだけだった。セロンは焦って、とにかく焦ってスタジオの和則に駆け寄り、驚愕している隣の席の由美釈子を置き去り(?)にして、とにかくスタジオを飛びだし、逃げた。
 焦れば焦るほど手足は震え、車のハンドルをにぎっているのもやっとだった。
 もう、美少女・魚田みすずはどこにもいない。禿げ男・和則がいるだけだ。女服姿の。「和則、もどっちまったな」
 運転しながらセロンと、助手席の和則は視線を交わしたが、和則が理解していないのは明らかだった。
「俺がいってるのは、禿げ男にもどったってことさ」
 和則はしばらく考えこんだ。「俺は…楽しかった」
 楽しかった? 美少女になって? しかし…。「それほんと?」
「それほんと」和則が請けおった。
「でも……これで俺はおまえを救えなくなった。もう、救えない。みせてやれたのにさ。和則、お前が勝利するところを。神様や、竹田や青沢らのクソ医者と…ミッシェルにも」セロンは苦くいった。
「俺はよかった」
 今度はセロンが理解できなくなる番で、和則はそれに気付いた。