異常人 T橋和則物語

 やっぱりただのヘナチョコなシュートだった。これならキャッチできそうだ。しかし、奇跡的なことに、ボールはセロンの両手の前でカーブしだした。バナナ・シュート? そして、セロンは持てるすべての力をつかいキャッチしようとして…そして、みごとに掴めずにゴールを許した。みごとに! 和則が勝ったのだ。セロンには信じられなかった。ゴールとは…。あんなヘナチョコのシュートを…。あのヘナチョコ和則のシュートを。
 和則は勝利の踊りをした。そして、ウイニング・ラン。当然だろう。和則率いるドリーム・チームの勝利なのだ。しかし、セロンが親友を失ったような顔でゴールポストによたれかかっているのを見て、和則の歓喜は消え去った。和則がゆっくりとセロンに近付いてきた。「セロン…セロン…」和則はいった。
「ビールおごろうか」セロンは答えた。そして「本気だったんだ。本気でシュートをとめる気だった。ところが…」
「シュートがよすぎた?」和則がいった。
 セロンの目に涙があふれ、彼はまばたきしてそれをこらえた。「すごいバナナ・シュートだったもんな」和則に同意した。「それにしても残念だよ。あいつらに見せてやれなくて。和則の勝利を」
 和則はなんのことかわからず、目を点にして茫然とした顔をした。
「俺がいってんのは、竹田や青沢らのクソ医者とミッシェルのことさ。勝利をみせてやりたかったっていってるんだ。和則がこんなによくなったのに…」


  テレビの生放送の仕事は夕方だった。
 魚田みすずこと和則は、由美釈子とともに番組収録に向かった。魚田はすばらしい魅惑の美少女だった。由美釈子も負けてはいない。しかし、魚田みすずは中身は和則だ。セロンはスタジオの袖でみていた。彼は、自分に勝利した和則は、こういう世界でも勝利するのではないか……という淡い期待をもっていた。きっと神様がいう”和則を救う”というのはそういうことなのではないか。そう思った。