異常人 T橋和則物語

「和則ってどんな奴なの?」 
 セロンの言葉に緑川は「日本一悲惨な男です。ハゲで馬鹿で間抜け」
 彼の言葉は刺があり、セロンは不思議に思った。「彼…君をぶったの?」
「…心の内面を」緑川はようやく答えた。ふたりはしばし沈黙におちいり、それぞれの思いにひたった。
「和則に会ってみたい」不意にセロンが言った。
 緑川は頷いた。「それがいいでしょう」セロンに笑顔を見せた。「和則を、日本一悲惨な男を救ってやってください」
「オーケー」
 セロンはぶっきらぼうに言った。
「あたしもいくわ」不意にやってきたミッシェルが言った。
 セロンは首を振った。「うれしいけどね」彼女に笑顔を見せた。「そんなことしてもらう理由がないよ」
「行きたいの。」ミッシェルは頑固にいい返した。「それが理由よ」


 東京郊外までいくと、道路は広くなり、登り坂になった。丘の頂きにまでくると、大きな白い建物が見えてきた。優雅で、均整がとれていて、緑のビロードのような芝生におおわれていた。まるで高級な、由緒あるホテルかリゾートだ。
「ここなの?病院って?」ミッシェルが不思議がった。もう緑川はいなかった。次の日の午後のことである。