異常人 T橋和則物語

         和則の”永遠”




  勝利! 和則は勝利した。
 教会に戻ってから、セロンはなぜか憂欝になっていた。「勝利はいいもんだな、和則。でも、勝ったのはあんただ」声がしぼんだ。「勝ったのはあんただ。俺は見ていただけだ」 見ている。和則はセロンの言葉を理解しようともがいた。「テレビみたいにか?セロン」 セロンは首を横に振った。「違う! だったらこんな惨めな気持ちにはならない。テレビをみたって、こんな負け犬のような気分にはならない」和則に目を向けると、和則はすでにテレビに夢中になっていた。
「あんたが俺のケツを救ってくれて……心が揺れたんだろうな」セロンは正直にいった。そして、その気持ちを和則に伝えなければならないとも思った。心の底から。セロンは溜息をついた。「今日はいっぱい稼いだよな、和則。これだけあれば当分の生活は安泰だ」 セロンは、恐怖におののく和則がやるのと同じようにぶつぶつ呟き始めた。何をいっているのかわからなかったため、和則は耳をセロンの口に近付けた。
「なのに、それで落ち込んじまった」セロンは呟いた。
 落ち込んだセロンをみるのは、和則にとって初めてのことだった。怒っている、笑っている、黙っている、策略をめぐらせている……。そういうセロンでなく、沈んだ彼をみるのははじめてのことであった。しかし、和則には落胆の意味がわからなかった。和則は一度も落胆したことがない。いや、意味すらしらないのだ。和則は混乱した。
「ひとにはいえない胸のうちさ」セロンはつぶやきながらいった。「あんたが俺のケツをすくってくれた。もう生活にはこまらない。なのに……ちっともうれしくないんだ。どうしてか、わからないよ」