異常人 T橋和則物語

「診察代ははずみます」セロンはいった。「先生ならこの娘を救えますか?」
「救える…ねぇ」
「先生なら、この娘にどんな質問をします?発作を抑えるような…」セロンは問いつめた。「あなたはテレビが好きですか?」
「それで……どんなことがわかるんです?」
「わたしはテレビが好きかどうかみすずちゃんにききました」
 セロン黙った。答えがききたかった。医師はいった。「彼女は、ウォーターといいました。これじゃあ答えになってないんです」
「でも…」セロンは食い下がった。「それは…かず…いえ、みすずちゃん流のイエスじゃないんですか?」
「ウォーターが?」
「そうです!」セロンは続けた。「ウォーター…イコール……イエス…です」
「みすずちゃんには不安にもとずく行動が多くみられます。ちょうどあなたが爪をかんでいるように」
 セロンは慌てて口から親指をはなした。また爪をかんでいたのだ。医者にクールな印象を与えようとしていたのに、なんたる間抜けだ。彼は舌打ちした。クールなイメージが完全に壊れてしまった。
「彼女は不安になると発作をおこすのだ」
「わかってますよ。それくらい!」セロンは抑圧のある声でいった。
「奇跡を……信じてるのかい?坊や」
「つまり、不安をなくせばいいんでしょ?簡単だよ。ずっとテレビをみさせればいいだけだよ」セロンにはそれはすごく簡単なことのようにも思われた。
 精神科医の微笑が大きくなった。「しかし、それがきみにできたら」続けた。「みすずちゃんの行動を二日のうちひとつでもとめられたら、君はノーベル賞をとれますよ」
 セロンは医者の皮肉にカッカきたが、そんなものは受け流すことにした。そんなものに関わっている暇はない。「やってみますよ」
 和則が救われたかどうかは神のみぞ知る、だ。
 とにかく、セロンは和則を連れて、帰った。