「店長はどー思います?心配ですよね?恵子ちゃんのこと……」



「そりゃね、大事な大事な従業員ですもの」



「…分かってるんです。そー簡単には立ち直れないことも、元気になることも……」



加奈は顔をふせたまま、こもった声で話し続ける。



「誰だって恋人が亡くなったら正気じゃいれませんよね…。しかも結婚まで控えてたし……」




一か月前、ウキウキして接客していた恵子を思い出す。

ドレスの写真を見せながら、あれやこれや話し合ったあのときの恵子の表情は、今まで見た恵子の中のどんな表情よりも輝いていた。

でも…今の恵子にあのときの面影は一つもない。

涙も見せず、パソコンに向き合って、いつも通り笑顔で接客をしていた。

無理してることくらい、加奈にも店長にもすぐ分かった。

だけど、誰も『休め』とは言えなかった。

今…また恵子からなにかを奪ってしまったら、恵子の中で微妙な状態で成り立っている何かが、音を立てて崩れてしまうような…そんな気がしていたから。




「何か…してやれませんかね……」



「何か少しでも…恵子ちゃんが前を向いてくれるようなことがあれば、なんでもしてやりたいんですけど……」




「だめよ」



「はいッ!?なんでですかッ!?店長、恵子ちゃんのこと、心配じゃないんですかッ!?」


「そりゃー心配よ。でもね……」





店長はおもむろにポケットからライターとタバコ一本を取り出して、慣れた手つきで先に火をつけた。

白い煙が少しずつ赤い炎の中から出きている。