「…立原海岸のそばに白いポストがあるんだって。そこにね、死んだ人で会いたい人の名前を書いて手紙を送ると……返事が返ってきて会えるんだって」



立原海岸……




そこには天狗がいるとか、大きなカラスの妖怪がいるとか、いろんな伝説があったためか、そこは夏でも人通りが少なく、海水浴をする人はほとんどいなかった。

私自身もそこにいったことはなく、あまり近寄りたくはない場所だった。



「友達も…試しにやってみようと立原海岸に行ったらしいけど……、白いポストすら見当たらないから、多分…迷信だとは思うけど……」



「そう……」


「…~ゴメンッ!!こんな無神経なことッ……。でもッ…少しでも恵子ちゃんに元気になってほしくて……」



「加奈ちゃん、ありがと」


私は目に涙を浮かべた加奈ちゃんの頭をそっとなでた。



「…恵子ちゃん~……」


「元気がなかった私のせいね。加奈ちゃんにまで迷惑かけて……。でも、大丈夫、加奈ちゃんのおかげで元気出たよ。ゴメンね、加奈ちゃん」


加奈ちゃんは頭を思いっきりブンブン振り、私はもう一度頭をなでた。加奈ちゃんはそっと顔を上げ、私が持っていた紙に目をやった。



「恵子ちゃん…、それ……」


私は加奈ちゃんの言わんとしていることを悟り、その紙をそっとゴミ箱の中に落とした。



「…しないよ。加奈ちゃんには悪いけど……。私はもう…前を向かなきゃね」



久々に笑ったら、口角が上手く上がらない。ひどい笑顔だっただろうな…。でも、加奈ちゃんは私にギュッと抱きついてきて、離さなかった。

お腹のあたりがしめってくるのが分かる。私は加奈ちゃんをギュッと抱き締めて、もう一度「ありがとう」と言った。





もう……いいよね……?




私は空のゴミ箱にひとつある、折りたたまれた白い紙に目をやり、心のなかのあの懐かしい笑顔に語りかけた。