天使の羽衣

巨木のすぐ横を一筋に流れ落ちる、純白の滝。

「お客さん…、」と、運転手は俺を見据え、少しためらったが、意を決したように言い放った。

「ここでは、人が死んでるんですよ」

「……」

「本当です。悪いことは言いません。どうかやめて下さい」

それでも俺は、必死な運転手の説得を半ば強引に交わし、車を降りた。

「ありがとうございました。では」

「お客さ…」

俺は軽く一礼して、歩き出す。

都内とは思えないほどの自然が、そこにはあった。

運転手もあきらめたのか、タクシーの走り去る音が聞こえた。あたりは静寂に包まれる。

俺は大きく深呼吸し、そして小さく呟いた。


「麻衣…」