天使の羽衣

「あ、そうだ」

彼女は思いついたようにそう言うと、俺に向き直った。
「まだ、あたしの名前言ってなかったね」

いまさらのように、彼女は自分の名前をゆっくりと口にした。

新崎麻衣。
少女は自分のことをそう紹介した。

俺はその名前を、しっかりと記憶に刻み込んだ。

思うと、俺が彼女について知りえた情報は、その名前くらいなものだ。

彼女は、天文部の部員だと言ったが、実際それが定かである保障はない。

それでも。と俺は思う。

彼女の正体がどうとか、そんなものは正直、大して重要に思えなかった。

彼女と、このくだらないやりとりをすることがそれ自体、俺にはとても有意義に思えたから。