天使の羽衣

「分かった分かった。今度はきちんと答えるから」

少し彼女を不憫に思い、俺は両手を上げ、まいったぜポーズをとった。

「当たり前でしょ。人に名前を聞くときは、まず自分から名乗る。これ紳士淑女の基本だよ」

「そうですね」

先に話しかけてきたのはお前の方だろ。という指摘は、のど元に留めておくとして、会話を続ける。

と、その前に俺は彼女に聞かなければならないことがあったのだ。

「ていうかさ、」
と、俺は彼女より先に言葉を切った。今度はちゃんとまじめな口調で。

「どうして、屋上に入れたの?ここは天文部しか入れないはずじゃ」

「あたしもね、天文部だからだよ。それに――」

それでもおかしい。と、俺は思った。いくら天文部でも、扉のスペアキーを持つ部員はごく一部のはずだ。

「それに、最初からカギ開いてたし」

語尾に(笑)がついたその言葉を聞いて、俺はようやく気がついた。


そうか昨日、カギを掛け忘れた―――