ミッドナイト・スクール

バアン! と、勢いよく開かれた扉から三人は弾き出た。後藤を先頭に和哉、ユリと続
く。
廊下にはどこから沸いて出たのか、大量のゴキブリが足の踏み場もない程うごめいていた。左右の壁、そして天井も黒一色に染まっている。
「いやああああ!」
叫び声を上げながら、ユリは懸命に走った。足が地面を踏む度にパキッ、グチャッという不快な音が、感触が伝わって来る。飛んで米たゴキブリは衣服に張り付き、それらを払い落としながら走り抜ける。
「階段を降りるぞ!」
三人は慌てて階段を降りた。途中、何度も足を踏み外しそうになりながらも、無事に二階へと非難出来た。
二階は三階の状況が嘘であるかのようにゴキブリどころか、ネズミ一匹見当たらない。二階には普段と変わらない廊下が続いているだけだった。
「いやあ、ゴキブリ、、ゴキブリが!」
スカートをはらったり、背中へと手を伸ばすユリたが、そこには何もいない。はたから見れば、ユリが奇妙な踊りをしているとしか思えない光景だ。
「ユリ、ユリ、落ち着け! ゴキブリなんかいない。もう大丈夫だ」
ユリは流れる涙も隠さずに、和哉の胸にすがりついた。その途端に腰が抜けたらしく、膝が折れて肩も震え始めた。
「もう大丈夫だ、よく頑張ったなユリ」
和哉は優しくユリの後ろ髪を撫でてやり、落ち着いた声で言葉をかける。
「う……ひっく、ううう、ひっく」
普段、気丈なユリからは想像も出来ない事だ。いつも冷静沈着で、頭のキレル彼女も、今はゴ
キブリに怯えるただの女の子だった。
「もう大丈夫だ。ここにはゴキブリはいない。落ち着けユリ」
次第にユリの呼吸は落ち着いていき、肩の震えも止まった。
「後は部室棟だけか……ユリ、来れるか?」
後藤の問にユリは弱々しく領いた。
「……大丈夫。もう何ともないわ」
先程のショックはまだ抜け切っていない様だが、ユリはぎこちない笑顔を見せた。
「よし、部室棟に行くぞ」