ミッドナイト・スクール

黒い物体はある物は飛び、ある物は地面を素早く移動し始めた。
「きゃああああ、ゴッ、ゴキブリ!」
普段のユリからは想像できない程の大きな悲鳴か上がった。
「うわっ」
慌てて和哉はパットで潰しにかかるが、相手は小さいうえに素早いため大振りのバッ卜はなかなか当たらず、ゴキブリは部屋じゅうを飛び回った。
「うわ、あれを見てみろ!」
後藤が窓の方を指さした。
一面の黒。窓一杯に隙聞なく張り付いた黒がうごめいている。暗闇でも黒とわかるその物体は、窓の隙聞から一匹、また一匹と中に侵入して来る。
「いやあああああ!」
ユリは胸を押さえてうずくまってしまった。息が荒くなり、恐怖に震えている。潔癖症のユリにとって、この状況は何よりも恐ろしい地獄そのものなのだ。
「和哉君、何とかして!」
 発狂したかのようなヒステリックな叫びが響く。
「何とかって言われても、これは無理だ」
バッ卜を振り回し、暴れる和哉をもろともせずに、ドアからもゴキブリは入り込んで来た。
「この部屋から出るしかない。ドアを開けて一気に突っきって階段を降りるんだ」
後藤が指示を出す。
「むっむむむ、無理、無理よ、私……動けない」
ユリはショックで足腰か立たないようだ。
「走るんだユリ、じゃないと俺たちやられちまうぞ!」
和哉が必死に呼びかける。
「あ、あああ」
腰の抜けかけているユリにとっては、ドアの付近まで移動するだけでも大仕事だった。
後藤がドアノブに手を掛けた。そして、後ろの二人に目線で合図を送った。
弱弱しくだが、ユリが領くのを後藤は確認した。
「行くぞ、下まで突っきるんだ」