ミッドナイト・スクール

……ステージに向かって全速力で走る信二。心臓はかつてない程に早鐘を打っていた。まるで夢の中にいるかのように、走っても走っても前へ進んでいる感覚がない。
……ドクン、ドクン、ドクン。頭に血液が逆流している。頭が熱い。

シャアアアアア。

信二が体育館の中央まで来たかという時、ロープが切れてギロチンの刃が音を立てて落ちた!

ドンツ! ……ゴト、コロゴロゴロ。

……あまりにも呆気ない一瞬だった。無情にも刃は落ち、また一つの命が消えた。
ステージの上は深紅の『赤』で染まった。後から後から流れ出る液体は、ステージの上からもこぼれ落ち、フロアの板の隙間へと染み込んでいった。飛ばされた首は蹴られたサッカーボールの様に無造作に転がり、目隠しが取れた顔がこちらを向いた。
静寂があった。誰も動く事ができず、そのまま立ち尽くした。
「うわああああ!」
僅かな間の後、膝から崩れ落ち絶叫する魅奈。
しかし、魅奈に差し伸べる手はなかった。誰もが自分を支えているだけで精一杯だった。暗い夜のステージショーは終わり、予告どおりの処刑が完了した。スポットライトに照らし出された悠子の最後は、フランス王妃マリー・アントワネットを彷彿させる以上に劇的な姿だった……。

数分後、変わり果てた姿になった悠子の上半身に、後藤の着ていた上着がかけられた。
「悠子……苦しかっただろう。怖かっただろう。もう、ゆっくりと休んでくれ」
そして後藤は悠子の側に、昼間、授業中に取り上げたチョコレートを置いた。
「くそっ! 断頭台はとっくに博物館入りして、ギロチン処刑はなくなったっていうのに、どっからこんな物を」
怒りのあまり断頭台を蹴る和哉。いつもクールな和裁が、ここまで感情を剥き出しにするのは初めての事だった。