見えない恐怖。
足音は次第に近づく。
しかし姿は見えない。
……信二達は近づく足音に恐怖を感じながらも、冷静に対策を考えていた。
怪物の動きは緩慢で意外に遅い。慌てずに逃げさえすれば、回避は難しい事ではない。
どちらかと言えば、ローブの女の方が要注意だ。
その女はテレパシーを頭に送って来たり、妖術だか魔法だかを使うようで、彼女の目を見ると吸い込まれそうになってしまう。手に持った鎌にも注意を払わなくてはならない。
ミシツ、ヒタッ、ミシッ。
足音が止まった。音は少しくぐもって聞こえていたので、すぐ近くで止まったような気もすれば、少し離れた所で止まったようにも聞こえ、いまいち位置が分からない。
「どこだっ?」
信二が前と後ろをきょろきょろと確認する。
「おかしい、居ないぞ」
バットを構え、袋からボールを取り出す和哉。
バアンツ!
突然、目の前の放送部のドアが吹き飛んだ。
「きゃあっ!」
魅奈が悲鳴を上げた。
ガン、ガガッッ、ガガンッ!
ドアは廊下の壁に激突し大破した。
「グ……ガガガ……グアアア」
のそりと怪物が狭い入口を通り出て来た。
「こいつが例の怪物かい」
初めて見る怪物の姿に驚きつつも、冷静な視線で冴子は身構えた。
「グガガア!」
ブンッ!
「おおっと!」
怪物の攻撃を冴子はヒラリと後ろへ飛んで避けた。
この狭い廊下に怪物が急に出て来た為、信二たちは怪物を挟んで二手に分かれてしまった。
怪物を挟んでHR棟側の廊下に冴子とユリ、あとは全員管理棟側にいる。
怪物は冴子とユリに狙いをつけたようで、そちらに向き直った。
「く、来るわ」
ユりが後ろへ下がる t
「HR棟へ戻るしかないね」
振り返った冴子たちを待っていたかのように、HR棟の方の廊下の角から、巨大な鎌を持ったローブの女が現れた。
「ウォ、ウォン、グルルルルル」
騒ぎを聞きつけたのか、ソンビ犬までが窓の外にやって来ていた。
……前は怪物、後ろは死神、横は壁とゾンビ犬。逃げ道はどこにもない。