声を押し殺し、様子を窺う二つの影。
ここはH・R棟2F、昇降口へと向かう踊り場である。
「ど、どう?」
男の後ろから女のか細い声が聞こえる。
「よく分からない。でも何か落ちてる」
男は目を凝らして踊り場の中央を見る。
「ちょっと見てくる、ユリはここにいるか?」
ユリを気遣い、和哉が独りで確認に行こうとする。
「待って……私も行くわ」
後ろを何度も振り返り、辺りを注意深く見ると、ユリは和哉に続いた。
踊り場の中央に、何かが落ちている。見た感じでは何か服のようだ。暗闇の中、クリーム色と薄暗い朱色が見て取れる。
「これは?」
「幸の服だわ」
手に持った服は、血で所々が赤黒く染まっている。そこには服と眼鏡以外、何も落ちてはいなかった。
「まさか、さっきの怪物野郎に……」
《食われた》の言葉を出さずに和哉は言った。
しかし、浅岡が怪物に食べられてしまったのではないかという考えは、服についている血からも伺えた。
「でも、なんで服だけ? 下着は落ちてないのに」
「はん、どうせ下着フェチの怪物なんだろうよ」
二人は、残念ながらも浅岡を死亡とみなし、地理室へと戻る事にした。
「ちょっと待って、荷物を取りたいんだけど」
そう言うと、ユリは生徒会室の中を覗いた。
「ありゃあ、こりゃひでえな。俺らの荷物全部潰れてるよ」
「ちょっとこれじゃあ、荷物を取るのは無理ね」
「しゃあない、戻ろうぜ」
「そうね」