第一章 平穏な昼の学校

十一月十三日(金)
秋風に紅葉の色が窺える季節になって来たある日の朝、信二はいつものように欠伸をしながら、駅から学校へと向かう道を歩いていた。
信二の家から学校までの道程は、自宅から最寄りの駅まで自転車で十分、乗り換えも含めて電車で三十分、そして今歩いている学校までの道が徒歩二十分。乗り換えさえスムーズに行けば約一時間の道程だ。
今は八時。朝のショートホームルームまではあと三十分ある。いや、ホームルームとはいっても、教師が点呼をとるだけなのだから、さして重要なものではない。教師もそれを知ってか四十分過ぎに来る事がほとんどである。
この時期は、入学してから八時半には学校に来ていた一年生も学校に慣れ、だんだん八時半過きに来る者が多くなって来る。二年、三年は論外で来るのが遅いので、この時間帯は自然と学生の姿がほとんどない。
信二はこの時聞が気に入っていた。駅から二十分の道程は少々長いかも知れない。夏の暑い日や、冬の凍えるような寒い日には、この長い道程を憎みもしたが、涼しい今の季節は寝ぼけた頭を起こすのにちょうと良いのだ。
後十分もすれば電車は生徒で一杯になり、駅から学校へ向かう道は生徒遠で埋め尽くされる事になる。だから、十分我慢して早く起きる事で、信二はこの平和な朝のひとときを楽しんでいた。