ミッドナイト・スクール

……午後の授業が始まり、また各クラス、黒板にチョークが忙しなくぶつかる。ここ2年E組の五限目は世界史だ。世界史と言えば、授業の中でも生徒にとって二つに大きく分かれる科目だ。
一つは歴史に興味を示す文系、もう一つは横文字が苦手で、カタカナ名前を覚えられないバリバリの理系だ。
コンスタンティヌス帝、カンビュセス2世、ウパニシャッド哲学、エウクレイデスなどなど、舌を噛みそうな単語や、1世、2世の違いなど、ややこしくて違いがよく分からない。よっぽど興味を持っている人でなければ、直ぐに内容を忘れてしまう科目だ。
ただ、ここでの授業は少し違った。別に世界史をやっていないという訳ではない。黒板に書かかれる単語も、例の覚えづらい単語だ。では何が面白いのか、それはこの教師の授業の仕方にあった。
「あー、ネルチンスク条約。ネルチンスク条約の年号は何年だ? ……そう、1689年だ。どうやって覚えるか、それはだな、色っぽく……色っぱく……チンをだな、そうすると、こうピョーっと、イッて……だな、ピョートル一世と、まあ、そういう訳だ」
「先生、下品ですよ」
生徒の一人が意見した。
「いいんだよ、俺はこういう風に覚えたんだ」
教師は教卓の上に腰掛けると、足を組んで教室内を見回す。
「こらそこ、寝るな! 俺の授業で居眠りをするとは許し難い奴だ、スクワット5回!」
「あっちゃー、見つかったか」
注意をされた生徒は立ち上がり、スクワットを五回やって着席した。
「……ん? お菓子の匂いがするな……そこだ!」
教師は、教室の窓際の席に座る小柄な女の子に、鋭く詰め寄った。
「あーん、見逃して。お昼食べてないんだもん。育ち盛りの女子高生なんだからお願い」
「お前はいつもじゃないか。それに育ち盛りのわりには、大きくなるのは胸ばかりで背はちっとも伸びてないじゃないか」
「セクハラ教師」