「ごめん……な……さい」
「何? どうして謝るのさ?」
「もっと早く……告白してれば……」
そこまで言った魅奈を、信二は抱き締めて黙らせた。
「何言ってるんだ、謝るのは俺の方だ! やっぱり告白は男がするものだし、魅奈ちゃんは十分にアプローチをしてくれてた。俺が臆病なばっかりに待たせちゃって本当にごめん」
そこまで言うと、信二は魅奈を見つめた。
「俺、魅奈ちゃんが好きだ。誰よりも……本当に誰よりも」
再び魅奈の目から涙が溢れ出した。
……そして、魅奈は黙って目を閉じた。
信二も唇を寄せる。

……時が止まった。

わずかな時間の後、二人は唇を離した。
そして言葉もなく、二人は抱き合ったままでいた。
「……ぐ、ぐふっ、ごほ、ごほっ!」
突然、魅奈か吐血した。
「魅奈ちゃん! 大丈夫か魅奈ちゃん!」
吐血は止まったが、脇腹の出血は依然として止まらない。ハンカチは完全に赤く染まり、ポタポタと雫が床に垂れた。通常なら、もう死んでいておかしくない程の出血だ。
「だめみたい……です」
顔面から血の気の失せた魅奈は、死人同然に見えた。
「ああ、俺は一体どうしたらいいんだ」
魅奈はうろたえる信二の手を握り、信二の目をジッと見つめた。
……そして、信二は悟った。魅奈は信二に何も望んではいない。ただ、このまま何処へも行かずに抱いていて欲しい……そう望んでいるという事を。
「大丈夫、俺は何処へも行かないよ。ずっと、ずっと魅奈ちゃんの側にいるよ」
その言葉に安心したのか、魅奈は弱々しい笑顔の後、黙って目を閉じた。
信二は魅奈を抱き締めたまま、何も喋らなかった。
魅奈もしっかりと信二の手を握り、胸に顔を埋めたままだ。

……やがて、呼吸が少なくなっていき……魅奈は静かに永遠の眠りについた。

ポツ、ポツ、ポタリ。
魅奈の頬に雫が落ちた。
信二は、それが自分の涙であるという事には気が付かなかった。ただ、魅奈との約束通りに信二は何処へ行く事もなく魅奈を抱いていた。

……いつまでも。いつまでも。