……その頃、冴子は外から一番ちかい窓へ忍び寄っていた。窓から中を覗くと、和哉が必死に戦っている所だった。
炎の轟音のため、中から和哉の声は聞こえては来なかったが、その表情を見れば、戦況は明らかだった。 いくら和哉が強くても多勢に無勢だった。襲いかかるゾンビを振り払い、殴り倒しても、後から後から起き上って来るのできりがない。
ユリのゾンビが和哉の腕に噛み付いた。
和哉はいちいち悲鳴を上げてはいないようだった。それもその筈で、既に何カ所か食いちぎられたらしく、あちらこちらから出血している。今更、傷の一つ二つ増えた所で和哉の死は免れない。
それを見た冴子は腹を決めた。
「……待ってろ和哉。今、楽にしてやるからな」
冴子は一度、校舎の方に振り向き、なにやら言葉にしたが直ぐに体育館の方へ向き直った。
腰を落として構えをとると、大きく深呼吸をする。
「はあああああ」
目を閉じて、気を高める。右の拳に力が流れ込むのを感じる。
「はああああああ!」
更に気を高めると、風によるものか、それとも冴子の気の力か、長い髪がフワリと浮き上がった。十分に気を繰ると、冴子は狙いを定めて拳を叩き込んだ。
「はああっ!」
バリィィン!
体育館の厚手の窓ガラスが粉々に砕け散った。
ビヒュウウウ!
空気の不足した体育館に、新鮮な空気が入り込む。
音に気づいた和哉がこちらを見た気がしたが、それも一瞬の事だった。

 ドゴオオオオオン!

体育館が大爆発を起こし、一瞬にして全てが砕け散った。
……火事で室内の酸素が不足し、冴子が窓ガラスを叩き割った事で外から入り込んだ空気が、パックドラフト(大爆発)を引き起こしたのだ。
ゾンビもろとも和哉も吹き飛び、冴子も爆発に巻き込まれて消えた。

……悪夢は終わった。