ミッドナイト・スクール

「土足じゃないか冴子」
「いいんだよ、まだそんなに汚れていないからさ」
信二の注意なんぞに従う冴子ではない。それに西高の風紀の問題の最も深刻なものは『土足問題』なのだ。冴子一人を正した所でどうなるものでもない。
「今が一番いい季節だな、バイクに乗ってて風が気持ちいいんだ」
「学校にもバイクで来てるのか?」
信二が聞く。
「冗談だろ、もし見つかったら大変な目に遭うぞ」
冴子は大袈裟なリアクションを付けて返事をするとタバコをもみ消した。
西高の屋上は別名『生徒の喫煙所』と呼ばれている。そのせいもあってか、辺りにはあちこちに吸い殻が落ちている。放課後になると先生方もたまに喫煙に来るので、この吸い殻のいくらかは先生達によるものだ。よって、先生は喫煙現場を発見しない限りは何も言わない……が、ゴミの処理はしてほしいものである。
「もう飯は食ったのか?」
弁当の焼きそばを食べつつ、和哉が冴子に聞く。
「ああ、食べたよ。今のは食後の一服さ」
「なあ冴子、タバコってうまいのか」
信二は尋ねる。
「これだけは吸う者にしか理解出来ない。私も初めはタバコなんて絶対吸わないって思ってたけど、今じゃコレなしじゃ生きられないんだから」
「そんなもんかね」
昼休みの間、世間話に夢中になっていた三人は、遠くから自分達をじっと見つめている人物がいる事に気づかなかった。