……作戦を立てた時に、真っ先に決まった約束事。それは『ピンチになったら人の事よりも自分の身を守る事だけを考える』だった。

もしもの時に人に頼る事は出来ない。自分の身を守るのは自分自身。そして仲間がピンチの時でも、助ける為に自分が危険を伴うようなら助けない。それが最初に決まった約束事だった。
「来るぞ!」
和哉はバットとボールの入った布袋を手に、入り口から来る敵を待った。
……ミシッ、ヒタッ、ミシッ。
例の独特な足音が、例の表現出来ない殺気が、今まで片方ずつしか味合わなかった二つの恐怖が同時にやって来る。
体育館の空気の温度が下がっていく気がした。風もないのに新聞紙が揺らめく。薄暗い体育館の闇が一層濃くなったように感じる。
 ……ミシッ、ヒタッ、ミシッ。
静寂の体育館内に、足音だけが響く。
「信二先輩……」
魅奈が痛い程に、信二の腕に力を込める。
そして……ついに体育館の入口に、ニ匹の怪物が姿を現した。
一匹は、鬼のような角を持った黒い巨大な怪物。
もう一匹……いや、もう一人と言った方かいいのかも知れないが、巨大な鎌を持った、ローブに青い光を纏った死神。
どちらからも感じられるのは殺意だけ。幾人もの人間が彼らによって殺された。ある者は体を切り裂かれて、またある者は首を切り落とされて。そして、それだけでは飽き足らず、今、信二たちにもその毒牙を向けている。
二匹はゆっくりとフロアに出て、和哉へと向かって来る。
「よし、来な。殺された奴らの仇だ」
ボールを取り出して、バットを構える和哉。
二匹がもういくらか進んだ時、冴子が動いた。
 キンッ、カシュッ!
冴子が愛用のジッポーを取り出し、火を点けた。
「そらよっ」
冴子がジッポーを床に放ると、そこから火が円を描くように二匹と和哉を囲んだ。