リヤカーを再び立て直し、冴子を乗せて信二と和哉は二人で引き走った。
後ろからゆっくりと、二匹の怪物が追って来る。
「よーし、うまくついて来いよ」
時折、わさと速度を落として距離を縮めたりしながら、体育館へと誘い出す。
「よし、冴子、乗れ」
リヤカーを体育館前に止めると、和哉は冴子をおぶって中に入った。信二も後に続く。
……中に入ると、ツンと灯油の匂いが鼻をついた。
「うわあ、凄い匂いだな」
信二たちに気づいた魅奈は、小走りに駆け寄って来た。
「信二せんぱい、寂しかったです」
さっそく腕にしがみつく魅奈。
「魅奈、はしゃいでいる場合じゃないよ、作戦開始だ!」
和哉の背中で、冴子が握り拳を作った。
「えっ、もう始めるんですか!」
「ああ、やつらももうそこまで来てるんだ、準備はいいね?」
「は、はい。出来てます」
顔に緊張の色を浮かべつつも、魅奈は胸を張って答えた。
……体育館内には、至る所に新聞の束、ホウキ、ベニヤ板等燃えやすいものが設置され、目立たないが、床には灯油で引かれた線が、それらに向かっていくつも伸びている。そして、あちらこちらの壁には、灯油がぶっかけられている。火が点けば、直ぐにでも体育館は燃え上がるだろう。
「よし、じゃあ作戦開始だ」
体育館には、既にユリも来ていた。
ユリは弓道場に行って来たらしく、いつの間にか胸当てをしていた。弓矢一式も持って来たようで、丸腰だったユリにこれ以上ない強固な武器となった。
「ユリって、弓道部だったんだな。俺知らなかったよ」
信二は袴姿のユリを想像したが、今のユリは普段着に胸当てを着けただけだ。
「ええ、そうよ。胸当ては弓を射る時に擦れないように着けるの」
まるで、信二の考えを見透かしたようにユリは答えた。
体育館フロアの、真ん中よりややステージ側に和哉が立ち、その少し後ろの校舎寄りの壁際にユリを除く三人が待機、そしてユリは弓矢を持ってステージ上にいる。
「よし、持ち場に着いたな、もしもの時は自分だけでも逃げるのを忘れるなよ」
それは全員で決めた約束事だった。