星野くんがピアノを弾き始める。
やっぱり上手い。
「星野くん?」
「何?」
星野くんは、ピアノを弾いてた手を止めて、こちらを見た。
「私、準備室にいるから、何かあったら声かけてね」
「了解」
私は黒板から離れると、ピアノの下に置いた鞄を持った。
そして、準備室に行こうとした時……。
「先生!」
と、後ろから声をかけられた。
「ん?」
振り返ると、私の前に小さな物体が飛んできた。
それを慌てて両手でキャッチする。
手の中にあったのはサイダー味のキャンディー。
「これ……」
手の中にあるキャンディーを見たまま言った。
「緊張しながらも間違えずにピアノを弾いた先生へ、俺からのプレゼント……てか、ご褒美かな?」
星野くんがクスッと笑う。
キャンディーのご褒美。
子供じゃないんだから……。
キャンディーを見つめたままクスッと笑った。
「ありがとう」
顔を上げて、星野くんを見て笑顔でそう言った。
星野くんもニコッと微笑む。
私はキャンディーをギュッと握り締めて、準備室へ入った。



