「……英?……紗英?どうしたの?」
「えっ?」
我に返った私。
お母さんが心配そうに私の顔を覗き込むように見てる。
「紗英?何で泣いてるの?」
「な、何でもない……」
私は手の甲で涙を拭った。
両親には私が学校を辞めた理由を話してない。
"教師という職業は合わなかった"
そう嘘をついた。
「何でもないって……」
「本当に何でもないの。ただ、この人のピアノを聴いたら感動しちゃって……」
私はワザと明るくそう言った。
「そうよね~。日本人初の優勝で、しかも最年少優勝って凄いわね~。星野さんってピアニストの綾野真季の息子さんなんですって」
「そ、そうなんだ~!凄いね」
私は笑顔でそう言った。
「明後日、日本に帰って来るみたいよ」
えっ?
明後日?海陽が日本に帰って来るの?



