「海陽……もう、帰って?」
このまま海陽といたら余計に辛くなっちゃう……。
「紗英さん……」
「お願い……帰って!」
私は俯いたまま、海陽の体を手で押した。
力の入ってない海陽の体は玄関の外に出た。
「紗英さん……ひとつだけ……ひとつだけ最後に俺のお願いを聞いて?」
私は何も言わずに海陽を見た。
「もし俺が、ピアニストになる夢を叶えたら……会って欲しい……」
私は何も言わず、泣きながら笑顔を作り海陽を見た。
そして、静かに玄関を閉めた。
ゴメンね……ゴメンね……海陽……。
ドアを閉めて、ドアにもたれ掛かったままズルズルと床に座り込んだ。
夢を叶えたら会って欲しい……。
そのお願いに"Yes"も"No"も言えなかった。
ただ笑顔を見せるしか出来なかった。
海陽……愛してたよ……。
夏の終わりに、私は愛する人と別れた――。