「海陽には未来があるの……。ピアニストになるっていう夢もある……。私には海陽の未来も将来の夢も奪う権利はないから……」
「何だよ……それ……」
海陽が吐き捨てるように言った。
「紗英さんがいたから……音大を受けようと思ったんだ……。紗英さんがいたからピアニストになる夢をもう1度叶えようと思ったんだ……。紗英さんと別れるくらいなら、ピアニストっていう夢も未来もいらない……」
「ダメ!海陽?ちゃんと音大に行って?ピアニストになる夢を叶えて?ねっ?お願いだから……」
「嫌だ……俺は紗英さんと別れたくない……」
海陽の目に光るものが見えた。
瞬きすると、頬を一筋の涙が伝った。
私は無言で首を左右に振った。
「紗英さん……何で……何でだよ……嫌だよ……」
「海陽……今まで、ありがとうね……」
これでいいんだ……これで……。
そう何度も心の中で呟いていた。