「僕は音大を受験することにしたんです……」
海陽が話しはじめると、校長室にいた者が一斉に海陽を見た。
「でも、うちにはピアノがなくて……うちには両親がいないので、高い月謝を払ってピアノを習いに行く事も出来ない。音大に受かるためには膨大な練習時間が必要なんです。放課後に音楽室で練習するだけじゃダメなんです。それで僕が水島先生に頼んだんです。水島先生の家のピアノを貸して欲しいと……。ただ、それだけです。さっきも言いましたが、僕と水島先生との間には何もやましいことはありません」
「水島先生……本当ですか?」
校長が私を見る。
「…………はい」
私は俯いたまま小さく呟いた。
校長から溜め息が漏れる声が聞こえる。



