「いや……それは……」



星野くんはなかなか鍵を受け取ろうとしない。


やっぱ抵抗ある?


そりゃそうか……。



「先生?」


「ん?」


「ここからだったら俺んちの方が近いし、買い物したら俺んち来る?」


「えっ?」



"ドキン――"


ほらまた……胸が鳴った……。


星野くんが自分の部屋に誘ったのは、私が買い物をしなきゃいけなくて、でも私の部屋に1人で先に行くのに抵抗があっただけ。


ただ、それだけで。


なのに何でまた胸が鳴るの?



「先生?俺んちアパートでオートロックとかないし、先に帰って待ってるから。アパートの場所わかるよね?」


「…………う、うん……。じゃー、そうしようかな?」


「じゃー、先に帰って待ってるね」


「うん」



星野くんは笑顔でそう言うと、私の部屋と逆方向に向かって歩きだした。


私は小さくなっていく星野くんの背中をベンチに座ったまま見ていた。