カフェの1番奥の、あまり人目のつかない席に和彦はいた。
「来てくれたんだね」
そう言う和彦は1ヶ月前と変わらない優しい笑顔を見せた。
「…………別に断る理由はないから……」
私は和彦の向かいの椅子に座った。
「でも、来てくれると思ってたよ」
和彦がそう言った時、店員さんが注文を取りに来た。
「何か飲む?」
「すぐ帰るから……いらない……」
私は目を逸らしたままそう言った。
店員さんは会釈をすると、その場から離れた。
「ねぇ?和彦?」
私は和彦を見た。
「ん?」
「用件は何?」
「用件?俺はただ、紗英に会いたかっただけ」
和彦がクスッと笑った。
ただ、会いたかっただけ?
何で急に?
1ヶ月前……和彦から別れを告げられた時には、すがる私の手を離したじゃない……。
なのに何で今頃になって?



