「話しをする前に、先生に謝らなきゃいけないことがあるんだ……」



謝らなきゃいけないこと?



「何?」



「俺、本当はピアノ習ってたんだ……」


「…………あ……うん……」


「もしかして……先生、知ってたの?」


「えっ?」



自分が「うん」と答えたことに後悔した。


何て答えたらいいんだろう……。



「誰かから聞いた?」


「えっ?…………えーっと……その……山下……先生に……」


「山下先生?」



星野くんは考え込む仕草をして「あぁ!」と、顔を上げた。



「じゃー……俺の母親がピアニストの綾野真季ってことも聞いた?」



私は無言で頷いた。



「そうだったんだ。知らなかった」



星野くんはクスッと笑った。



「ゴメンね……」


「何で謝るの?先生は謝る必要ないじゃん。謝る方は嘘をついてた俺の方」


「星野くん……」


「先生、ゴメンね」



私は何も言わず、首を左右に振った。