「私には……和彦しかいないよ?これから出会いなんてない……。いやだよ……。和彦と別れたくないよ……」
私は俯いて、泣きながら首を左右にブンブン振りながらそう言った。
「紗英?俺を困らせないで……」
「いやだ……別れたくない……」
「紗英!」
「和彦?」
私は顔を上げて和彦を見た。
和彦も私を見る。
「じゃー……最後に……私を抱いて?最後に……アナタの温もりを私の体に刻んで……」
そう悲願する私に和彦は、私の腕をそっと離す。
「…………ゴメン」
そう私から目を逸らして、小さく呟いた。
これがきっと和彦の答え。
1度割れてしまったガラスは元に戻らない。
それと同じで、1度離れていった心も元に戻らない……。
和彦の心は私から離れていってしまったんだ……。
"バタン――"
静かに閉まる玄関。
そこには、もう、和彦の姿はなかった――。